魚礁豆知識

 

人工魚礁とは

 海の中で、海底から突き出た岩山のようなところに魚類が多数集まることが、古くから観察されています。このような場所を「魚礁」あるいは「天然礁」といいます。
魚類が棲みやすく、繁殖しやすい機能・場所を人工的に作り、魚類を増やすためのものが人工魚礁です。

人工漁礁に求められる機能

 魚類は自然礁であれば岩陰や海草、人工漁礁であればコンクリートや鋼製等の人工物等の「もの」があるところに集まる性質があるといわれています。
「もの」の機能については①摂餌場②逃避場③休息場④生殖場⑤その他に分けて説明される場合が多いようです。

①摂餌場・・・漁礁にはカニやエビ、フジツボなどいろいろな餌生物が棲息すること、またプランクトンは漁礁周辺に存在しやすく、幼魚はプランクトンを餌として成長します。幼魚にとって最良の摂餌場となり、さらにより大きな魚が小さな魚を食す食物連鎖は漁礁の摂餌場機能を高めます。

②逃避場・・・小さな魚が身を守るための隠れ場や、大きな魚に襲われた時の逃げ場となる機能。

③休息場・・・流れが速く泳ぎ続けることが難しいときに魚礁が休息場となります。

④生殖場・・・光合成可能な浅海域では、海藻類などが魚礁に着生し、魚類の産卵・保育行動にとって海藻は有効に機能するとされます。

⑤陰影等・・・魚礁には音や陰影、流れの変化があり、そのために魚が引き寄せられるとも言われています。音とは、魚礁の岩や穴に生息するフジツボやカニなどが出す音、流れが岩にぶつかって変化するときに出る音などとされます。

漁礁の種類

魚礁は形状、使用材料、重視する機能(対象魚)、沈設ないし浮漁礁等いろんな観点から分類されるように多くの種類があります。一般的には漁礁を設置するにはさまざまの条件を検討します。水域や漁法の特色(波、潮流、水深、対象魚等)に最適な人工漁礁が制作され設置されるため、多種・多様な漁礁があります。

<形状からの分類例>
 角型 丸型 積立型 高層型等

<使用材料による分類例>
 コンクリート 木材 鋼製

<重視する機能・対象魚による分類例>
 海藻の増殖を重視した増殖礁魚礁、網掛かりしにくい魚礁、イカ対象魚礁等
<参考図>

 「一般社団法人 水産土木建設技術センター長崎支所」のホームページを参照させていただきました。

魚礁に集まる魚種例

魚礁に集まることが知られている魚種は、100~200種にわたり、浮魚から底魚まで幅広くみられ、海域、水深、季節、成長段階によっても異なります。魚礁に体をくっつけるカサゴやアイナメ、魚礁の近くを泳ぎまわるマダイやイシダイ、魚礁から離れた中層を群れで泳ぐブリやアジ・サバ、魚礁周辺の海底に集まるヒラメやカレイなど様々な魚がいろんな場所に集まります。また、魚以外にもカニ・エビやイカ・タコなどを対象とした人工魚礁もあります。
 一般的にはタイプ別に下記のように区分されているようです。

魚類区分 I 型 魚礁の中、魚体の一部を接触させて位置する魚類
アイナメ、カサ、クジメ、オコゼ、マダコ等
II 型 魚礁のごく近くの周囲に位置する魚類
マダイ、チダイ、イシダイ、メバル、クロソイ、メジナ等
Ⅲ型 主に魚礁から離れた表中層に位置する魚類
ブリ、,マグロ類、カツオ類、アジ類、サバ類、シイラ等
IV 型 主に魚礁周辺の海底に位置する魚類
ヒラメ、カレイ類、アマダイ、シロギス、カジカ等

「魚礁」「増殖礁」「藻場礁」の使い分けは?

 魚礁は魚類がたくさん集まる様に考案されたもの。藻場礁は海藻類が増える様に考案されたものです。増殖礁は魚類が増える様に考案されたものですが、魚の産卵場所や稚魚の隠れ場を提供する藻場礁のことを増殖礁と呼ぶ場合もあります。しかし、実際に海底に設置した場合、海中海底の生物にとってはその作成目的とは関係無く、それぞれが生活しやすければそこで生活し、繁殖します。作成したときの目的の違いと言っていいのではないでしょうか。

人工漁礁の生育過程

多様な条件を考慮した効果的な人工漁礁を設置後の漁礁周辺の水域の生物的環境はどのように変化していくのでしょうか。

水深や季節によって様々ですが、一般的には次のように説明されます。

(1)海藻の繁茂

太陽光が十分に届くような浅い(水深約70~80メートル以下)水域に設置され、1カ月程度経過すると人工漁礁基質表面に水圏の一次生産者たる珪藻が着生し、漁礁を着生基盤として繁茂するようになる。

(2)固着動物の着生
魚礁が設置され2~3ヶ月が経過すると魚礁部材の表面に、コケムシ、ウズマキゴカイ、フジツボなどが見られるようになり、場所、季節によってカキ、ホヤ、イガイなど様々な種が固着する。これらの動物は、水域、水深、水温などの環境によって多少異なるが、日ごとに種類や量を増して、沈設後1年が経過する頃には、種や個体間で着生場所をせめぎ合いながら、魚礁表面のほとんどを覆うことになる。

(3)潜入動物の棲息
固着動物の着生、生育によって複雑化した人工魚礁の部材には、エビ・カニ類、端脚類のほか、ゴカイ類などの小型の動物が棲息するようになるほか、ナマコ、タコ類、魚類の幼稚仔も潜入する。これらの潜入動物は複雑な空間を隠れ場、繁殖の場としながら、流れてくるプランクトン、デトリタス、固着動物なを餌として繁殖する。

(4)プランクトンの蝟集
海中に置かれた人工魚礁の潮陰には渦流域が形成され、そこにはマダイ、カレイ類などの幼稚魚の重要な餌となる、カイアシ類が密集群となって蝟集するほか、礁内部や底部にはアミ類が密集する。

(5)底生動物の変化
魚礁周辺の土砂は流れによって移動を繰り返し、砂に潜っていた二枚貝、環形動物などが露出して、マダイ、カレイ類などの餌となるほか、魚礁の固着動物や潜入動物が落下して、魚類などの餌となっている。 このように人工魚礁の設置によって、物理的環境が変わり、それに応じて多種多様の生物が生息するようになり、生物的環境は極めて複雑になる。つまり効果的な人工魚礁の設置は、水域を多様性の高い生態系に変化させる。そのような環境は安定した生物生産の場として、水域を豊かにすることになる。

                                                                                                                                                              引用元:柿元 晧(財団法人 漁港漁場漁村技術研究所)